昔あるところにインディアンが住んでいました

「うちはおやじが糖尿病だから、おれが糖尿病なのも遺伝なんだよね~」
糖尿病と遺伝の話になると必ず引き合いに出されるのがピマインディアンです

アメリカのピマインディアンは働き者でスレンダーな民族でした
昔ながらのものを食べ、昔ながらの狩りや農業をして、自給自足のロハスな生活を
営んでいました。そこへ西部開拓の白人達が押し寄せてきて、彼らは追いやられ
1970年頃には、インディアン居住区で観光業などを営みながら
政府の食料援助を受けて暮らすようになりました。従来のような重労働を
しなくなった一方で、ファーストフードを食べて暮らすようになったのです
その結果、今や人口の50%が糖尿病で90%が肥満となってしまいました

このピマインディアンで肥満になりやすい遺伝子=肥満遺伝子が見つかりました
その遺伝子のある人は、脂肪燃焼がしにくく、消費エネルギーが少ないそうです

「それじゃやっぱり、糖尿病は遺伝なんじゃないか?」
ところが、ピマインディアンにはメキシコに住んでいる種族もあり、こちらは
今も伝統的なインディアンの生活を営んでいて肥満にも糖尿病にもなりません
このことはつまり、生まれつき糖尿病になりやすい遺伝的素質を持っていても
食事と運動に気を配っていれば糖尿病にならなくて済むということなのです

「やっぱり、食事と運動なのか・・・」
一方で、肥満遺伝子のある人は、初潮が早く妊娠可能期間が長く種の保存に有利で
少ない食料で済むので飢餓にも強く、氷河期や飢饉を生き延びるには便利だったので
この遺伝子は節約遺伝子とかエリート遺伝子などとも呼ばれているのです

日本人はこのピマインディアンと遺伝的に似ています。モンゴル系の人々が
氷河期で地続きになった時、ベーリング海峡を渡り、アラスカに住んだのがイヌイット
アメリカに南下したのがピマインディアン、日本列島に来たのが日本人といわれ
これらの民族は遺伝子に共通点が多く、日本人も肥満遺伝子を多く持っているのです

「食べても太らないとか、太ってても糖尿病にならない人が羨ましいよ」
白人は太っていても糖尿病になりにくい民族だそうです。私もちょっと悔しいので
今度の北京オリンピックでは、モンゴル系の国を応援しようと思っているんです
同じ先祖で同じ遺伝子があって糖尿病になりやすさも似てると思うと親近感がわくし
飢餓に強いところを生かして持久力勝負のスポーツで活躍して欲しいですね

「おれはやっぱり新体操が楽しみだね。ヨーロッパ人の人って脚長くてきれいじゃん」
確かにスタイルが良くて羨ましいですよね(いいですよ、私は一人で応援しますよ)
どの民族であっても、鍛え抜かれたアスリートの人達にはメタボなんて縁が無いのです

昔は、鶏肉を食べられるのは飼っていた鶏が卵を産まなくなってつぶした時だけで
お肉は固いし、ピーちゃんは家族の一員だったし、食が進まなかったといいます
それが1920年頃のブロイラーの出現によって鶏肉はいつでも好きなときに
自責の念にかられることもなく食べられるようになり、それを使って
1939年かのケンタッキーフライドチキンの調理方法が考案されたそうです

昔のロハスな生活を気取って、お肉を食べる時「ブーちゃん痛いのにごめんね
モーちゃん短い一生だったね」などと話しかけながら食べてみたらどうでしょう
食欲がそがれてやせるかも?(きっとまた速攻却下ですよね・・・)
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埼玉糖尿病研究会

埼玉糖尿病研究会に行ってきました
年2回開かれ、第49回を数えますので、24年続いているそうです

講演の二題目は「肥満症治療へのアプローチ」というものでした
肥満症の最先端外科治療である、胃バンディング術(胃を縛る)や
胃内バルーン留置術(胃の中に風船を入れる)などを、唯一
我国で手がけているのは大分大学ですが、その内科の方の
吉松博信教授の講義で、とても聞きごたえがありました

内科なので外科のように切った貼ったのダイナミックな要素はない
ものの、肥満症を得意としている大学だけあって、内科的アプローチ
にも先進的なセンスを感じて、興味深かったです

野生動物は満腹になったらそれ以上には食べないそうですが
それは、太ったらエサを捕まえる俊敏性を失うし、無駄な食事は
エサそのものを枯渇させてしまうと知っているから

ところが大脳皮質の発達した人間は、満腹でも
「せっかく大分まで来たんだからセキサバ食べて帰らなくちゃ」とか
「甘いものは別腹だから」などの、食生活に対する偏った考え方
があり、満腹でも食べてしまえるのだそうです

ヒスタミンンという物質は脳の視床下部というところで作用して
食欲が抑えられるけれど、ヒスタミンを服用しても
血液脳関門(血液が脳に入っていく時の関所)を通れないので
体の中に既にあるヒスタミンをうまく利用するしかなく
その為には、咀嚼法といって30回くらい噛んで食べるようにすると
その刺激で、自前のヒスタミンがどんどん出てくるそうです

アレルギーのお薬はそのヒスタミンを抑える作用があるのですが
では、抗ヒスタミン剤は太ったりしないのかと心配になりました
血液脳関門を通らないからあまり眠気が起きないということを
うたい文句にしている抗ヒスタミン剤があるので、来年の花粉症
はそれで乗り切ろうと決心しました

その他にもレプチンや、褐色脂肪細胞や、β3アドレナリン遺伝子多型など
肥満の解明に関するお話が盛りだくさんで、アッという間の1時間でした
こんな面白い講義を、無料で聞かせていただけるなんて、幸せだなと
つくづく思います。仕事してて良かったです

24年前といえば、やっとインスリン自己注射が保険適用になり
さらに糖尿病医療関係者の方々は、「血糖も測らずに注射するのは
暗闇で手探りで歩くのと同じ」と、血糖自己測定の保険適用に向けて
医師会や厚生省に働きかけていた頃です
そんな時代にこういう研究会を立ち上げた、埼玉の医療関係の
先輩方の情熱に思いを馳せた一日でした


継続は力なり

「糖尿病手帳に書いてある、血糖値とヘモグロビンA1cってどう違うの?」

ヘモグロビンは肺で酸素を受け取っては体中に運ぶ仕事をしています
一方、糖尿病では悪者にされがちなブドウ糖ですが、これもまた
体の色々な組織にエネルギーを供給する大切な仕事を担っています
この二つが血液中でくっついて離れなくなってしまうことがあります
これが糖化したヘモグロビン=ヘモグロビンA1cで、血糖が正常でも
20個に1個位のヘモグロビンに糖がくっついてしまうといわれていますが
血糖が高めの場合は当然それよりも多くの糖化ヘモグロビンが出来ます

ヘモグロビンの寿命は大体4ヶ月ですが、古い糖化ヘモグロビンに変わって
新しく糖化を受けていないヘモグロビンが生まれてきますので、おおよそ
ヘモグロビンA1cは過去2ヶ月にわたっての平均血糖値を反映します

血糖値は食後が高く、空腹時は低く、一日のうちでもかなり変動しますので
2~3日、食事と運動療法を頑張れば短期的に下げることも可能です

ですから「血糖値」は一夜漬け勉強でも何とかなる数値で、「ヘモグロビンA1c」
は普段から地道に努力していないといい点取れない数値といえます

「先生もヘモグロビンA1cの方が大事だって言うけど、私は血糖値は結構
低いんだけど、ヘモグロビンA1cが高いんだよね。下げるコツを教えて。」

一夜漬け勉強で良い点が取れるんですから、その努力を毎日続けていかれたら
その平均値のヘモグロビンA1cもきっと良くなります
日頃頑張らないで、試験の前日にヤマかけしようなんて考えない方がいいです
自慢じゃありませんが学生時代、試験のヤマが一度も当ったためしの無い
私が言うんだから間違いないです
「桶狭間」って漢字を何度も練習したのに「関が原」が出てガックリ・・・

そんな私でも血糖値のヤマは当てる自信があります。それは「食べた後」です。
ヘモグロビンA1cは平均血糖値なのですから、血糖値のヤマを低く抑えられれば
下げられるはずです。つまり「食後体を動かすこと」がコツです

例えば、買い物に行くとか掃除をするとか外回りに行くとかを食前にやって
いらっしゃったのであれば、それを食後にするようにするだけで
食後血糖値のヤマは随分低くなります。何もジャージに着替えて
運動靴に履き替えなくても、体を動かすことは日常生活の中に十分あります

昔からよくいわれる「食べてすぐ寝るとウシになる」とか
「働かざるもの食うべからず」とかは理にかなったことだったんですね

非日常的なことは短期間なら頑張れても長続きはしません。これは
日常生活の一部なんだと自分自身にも思い込ませた方が続くようです
通勤時一駅前で降りて歩く(会社が最寄り駅から遠くに移転したと思う)
買い物は少し遠いスーパーに行く(近くのスーパーは廃業したと思う)など

「花に水をやる」のは誰にでも出来ることですが
「毎日花に水をやる」となるとなかなか出来る人はいません
そういえば夏休み、宿題の絵日記をギリギリにまとめて書いていた私でした

頑張れインスリン営業マン!

(7月19日のブログの続きです)
エネルギー貯蔵庫である脂肪には、ホルモン分泌作用もあることが解ってきました
その中には「インスリン抵抗性」を悪化させるホルモン(FFAやTNF-α)も
改善するホルモン(アディポネクチン)もあり、そのアディポネクチンを増やす
といわれているのが「アクトス」というお薬です

インスリン営業マンが、お得意先の脂肪や筋肉で「うちはブドウ糖は
間に合ってます」と鼻先でピシャリとドアを閉められようとしたその時
「そこを何とか!」と割って入り、強引にブドウ糖を相手に押し付けるスゴ腕を
持った助っ人がアクトスなのです。その代わりアクトスの口利きに頼りすぎると
血糖は下がっても、脂肪は不必要なブドウ糖を引き受けるわけですから、肥大して
肥満のもととなり、インスリン抵抗性が悪化するおそれがあります
アクトスをのむのであれば、従来の食事療法を一層しっかり行う必要があります

昔から、糖尿病の方は、インスリンによる糖の取り込みが減っていても
運動による糖の取り込みは保たれていることがわかっていました
その理由として、脂肪や筋肉で、インスリン営業マンがやってきた時に受付嬢
チロシンキナーゼさんに頼んで開けてもらえるブドウ糖搬入口以外にも
別の受付嬢によるもう一つの搬入口があることが、最近わかってきたのです

それはAMPキナーゼさん(もはや舌をかみそう過ぎて、イニシャルのみ)
という受付嬢で、この受付嬢はインスリン営業マンとは一切面識が無く
運動時に出てくる物質のブラジキニンさんや、前述の気立てのいいホルモンの
アディポネクチンさんなどの働きかけにより、インスリン営業マンとは
全く別の搬入口からブドウ糖を入れてあげることが出来るのです

もうおわかりのように、アディポネクチンを増やすアクトスはこのインスリン
とは無関係の搬入口に働きかけるので、たとえインスリン抵抗性があっても
ブドウ糖を引き取ってもらえるのですが、体重が増えるのが難点です

中世ヨーロッパ時代から糖尿病に効くとされてきた植物を先祖に持つ
メトフォルミンというお薬は、親戚のフェンフォルミンというお薬が重大な
副作用があって姿を消した為、しばらくは仕事を干されていましたが、
体重を増やさずに糖尿病を改善するので、最近又復帰しだしました

実は、このメトフォルミンは運動したときと同じように、AMPキナーゼの
ルートを直接刺激していることがわかり、しかも筋肉でしか作用しないので
体重も増えないのです。つまりインスリン抵抗性が悪化しないのです
このメトフォルミンのことを「運動したことにしてくれる薬」と呼ぶ医師もいます
しかも、この薬には糖尿病合併症を防ぐ作用もあることがわかってきています

「今、もらってのんでいるお薬の中にその二つはないなぁ」(注)とがっかりすることは
決してありません。メトフォルミンは「運動したことにしてくれる薬」なのですから
逆に、運動すれば「メトフォルミンをのんだこと」になるのです
つまり、運動すれば、アクトスもメトフォルミンものまなくてもいいのです
その方が断然経済的ですし、運動して痩せたら「インスリン抵抗性」も解消され
あなたのインスリン営業マンの営業成績が『痩せ子さん』のとこの営業マンに
追いつき、追い越す日も夢ではなくなるのです。
頑張れインスリン営業マン!

(注)メトフォルミンは製薬会社によって、メルビン、グリコラン、ネルビス
  等、名前が変わります

インスリン営業マンが行く

「私は、普通にインスリンが出ているのに糖尿病なんだってさ
インスリンは血糖を下げるホルモンじゃないの?」

インスリンはブドウ糖を体の色々な組織に売り歩く営業マンです
営業所は膵臓というところで、普段から一定のインスリン営業マン
が血液中を巡回して、血糖が高くなり過ぎないように営業しています

ご飯を食べて、体の中にたくさんのブドウ糖が入ってくると
営業所からインスリン営業マンが増員され、まずは肝臓というお得意様
のところに行きブドウ糖を引き受けて頂けるように働きかけます
肝臓はそれまでグリコーゲンからブドウ糖を生産していたラインをストップさせて
逆にブドウ糖からグリコーゲンを生産するラインに切り替えます

次のお得意様は筋肉や脂肪で、インスリン営業マンがやってくると
チロシンキナーゼさんという(舌をかみそうな名前の)受付嬢が
ドアを開けてくれて、ブドウ糖を中に搬入してくれるのです

ところが、太って脂肪組織が満杯になってくると、脂肪さんでは
「いくらインスリンさんの頼みでも、うちはブドウ糖は足りてるから
もうこれ以上引き受られないよ」とインスリン営業マンが門前払い
されてしまうのです。これが「インスリン抵抗性」と呼ばれるものです

その頃、営業不振に悩む膵臓営業所では、物量作戦に訴えれば
お得意様がご機嫌を直してくださるのではないかと考え
営業マンを増員するので、インスリン抵抗性の強い方では
普通の三倍ものインスリンを分泌している場合もあります

確かに、インスリン営業マンの人員不足が原因でなってしまうタイプの
糖尿病もあり、「インスリン分泌不全」と呼ばれていますが
お分かりのように、今回の営業不振の原因は決して人員不足ではなく
お得意様側のご事情が悪くて引き受けて頂けないのですから
営業マンを増やしても無駄だし、さらには、膵臓営業所は疲れ果ててしまい
悪くすると営業所の閉鎖を招いてしまうかも知れません

糖尿病の二大原因は、「インスリン分泌不全」と「インスリン抵抗性」で
人によりこの二つが、7:3とか、2:8とかの割合で入り混じっているのです

「ふーん、糖尿病って大変そうだね。僕は太っているけど糖尿病とは
縁が無いんだ。ただ、血圧が高いだけだよ。」
と、ほっと胸をなでおろしている方も決して油断はできません

糖尿病ではなくても、太っていれば「インスリン抵抗性」の状態には
なっている可能性があり、本態性高血圧(これといった原因の無い高血圧)の
半分以上の方々には「インスリン抵抗性」が潜んでいると言われます
無駄なインスリンが多い状態の「高インスリン血症」は高血圧をもたらすのです

今日もインスリン営業マンのため息が聞こえます「ああ、痩せ子さんの
ところのインスリンはどうしてあんなに営業成績がいいんだろうなぁ」と
でも、その「インスリン抵抗性」を打破する凄い営業戦略が実はあるのです!!

ブドウ糖定期預金

朝食前の血糖値がどうしても高くなってしまうという患者様が
「先生は、明け方トイレに起きた時に血糖を測りなさいと
おっしゃるんだけど・・・」と、不思議そうな顔をされました

朝の血糖が高くなる現象として、暁現象とソモギー現象というのがあり
きちんと区別しないと対処法が正反対となってしまうのです

暁現象は、体内時計が目覚めてからの活動に備えて、早朝に血糖を
上昇させる生理現象で、糖尿病でない方はそれに応じたインスリンを
分泌して血糖値を正常範囲に保つのですが、その抑制力が不足している
糖尿病の方は血糖が上昇したままになってしまうのです

一方のソモギー現象は、薬やインスリン注射のため、又は食事が少なすぎたり
運動量が多すぎたりしたせいで、低血糖になった時に、体がびっくりして
慌てて血糖を上げようとした結果、糖新生が行き過ぎて高血糖に
なってしまう現象で、低血糖のリバウンドとしての高血糖ですので
一日中いつでも起きる可能性があります

暁現象には、夕食を減らすとか、就寝前のインスリンを増やすとかして対処し
逆に、ソモギー現象には、就寝前に捕食を摂るとか、就寝前のインスリンを
減らすとかして対処しますので、両者の判別が重要となり、明け方の血糖値が
高いか普通ならば暁現象、低ければソモギー現象と判断されるのです

「でも私夕飯の後何も食べていないのよ。それなのにどうして一旦下がった
血糖が勝手にあがるの?」これもよくある質問です

食事をとった時、大量のエネルギー源であるブドウ糖が吸収されますが
それが全部血液中にとどまると血糖値が3000mg/dl近くになってしまうので
当面やっていけるだけのブドウ糖をおサイフである血液中に残して
余った分は肝臓に当座預金として貯え
さらに余った分は脂肪として定期預金に貯えます。
なので、食後だいぶたっておサイフの中身=血糖が少なくなってくると
まずは肝臓の当座預金よりブドウ糖貯金をおろし
次には脂肪や筋肉より定期預金を崩してきて使うようになるのです

銀行の定期を崩すのは経済的に逼迫した嫌な感じですが
脂肪に貯えたブドウ糖定期預金を崩すのは脂肪燃焼=痩せるので
スタイルも生活習慣病もよくなりハッピーな感じです

次の食事にありつくまでに使うエネルギー分だけを食べれば体重は現状維持
それより食べる量が少なければ定期預金を崩してきて使うので痩せて
食べる量が多ければ、定期預金が増えて脂肪が貯め込まれるのです

ちなみに私ですが、次の給料日までの銀行預金は毎月不足気味ですが
何故だかブドウ糖貯金に関しては、絶食がかなり続いても大丈夫なくらい
徳川埋蔵金規模の定期預金があります

人類の叡智

20世紀初頭にライト兄弟が初めて空を飛び
21世紀初頭に人類は火星に探査機を飛ばすようになりました

私の大学入学は1977年、学籍番号77-7でした(ウルトラセブンと呼ばれた)
講義で、大腸菌の遺伝子の中に人間のインスリンを作る遺伝子を
組み込ませてやると、何も知らない大腸菌が自分にとって必要な蛋白質と一緒に
ヒトのインスリンもうっかりこしらえてしまい、その生成物の中から
ヒトインスリンだけを単離してくれば人間のものと全く同じインスリンが
出来るという夢のような話を聞きました

私は正直信じられませんでした。遺伝子組み換え技術のことは知っていましたが
そんな凄いことは多分、あと数十年位したら実現するのだろうと思っていました

大学卒業後の1981年、世間ではインスリンの自己注射が正式に認められたと
騒いでいました(それまでは超法規的措置により自己注射していたそうです)
まもなく日本でも純粋なヒューマン・インスリンが使われだしました

考えてみれば人類が感染症に怯えなくて済むようになったのは
カビの発生する抗生物質のおかげであり(カビは人間の為というより自分の
縄張りを守る為に、細菌を殺す物質を出しているようですが)
次に人類が利用したのは細菌で、遺伝子組み換え技術を使い、細菌にとって
不要だが人間にとって必要な蛋白質を作らせるようになり
今や癌抑制遺伝子を癌病変部位に運ぶベクターとして、免疫機構の監視を
かいくぐることが出来るようにしたウィルスを利用しようとしています
だんだんちっちゃい生物を利用するようになって行っているようです

ところが、糖尿病の患者様にはこの『人類の叡智の賜物』とも言うべき
インスリンは意外と不人気で、注射は打ちたくないというのが本音のようです
まずは針が痛いからなのでしょうね。それに、インスリン注射というと
いかにも糖尿病が悪化したかのような印象を持たれるのでしょうか

川崎医科大学の加来浩平教授によると、今は昔と違い、インスリン治療は
「早期導入、早期離脱」が世界の糖尿病専門医の常識だそうです
のみ薬で行き詰まってしまってからインスリン注射を導入しても
良好な経過に至るのが難しく、むしろ思い切って早めにインスリン導入して
糖毒を取り除き、コントロールを良くして、再びのみ薬に戻すというのが
理想なのだそうです。実際、インスリン注射で良くなって、のみ薬になり
そののみ薬すら、のまなくて良くなった方を何人も見ています

日本では保険制度もあって恵まれていますが、発展途上国ではインスリン代は
成人の月収に当たり、インスリン依存性の方は命を落とす場合も多いようです
そういった国々に期限切れのインスリン(期限切れでも少し効力が残っている)
を送る慈善団体もあります。人類の叡智の恩恵にあずかれる日本人は幸せです

時代というのは変遷します
ライト兄弟に、火星地表の映像が送られてくるようになると話したら
目を白黒させたでしょうね。あの時の私と同じように
黒板に「E.coli」(大腸菌)と書かれたあの日の講義の始まりを
今でも覚えています

都市伝説バスターズ

血液を固まりにくくする『バファリン』というお薬をのんで
いらっしゃる患者様が、ある日こんなことをおっしゃいました
「同じ薬をのんでる友達が教えてくれたんだけど
このお薬のんでいる人は納豆食べちゃ駄目なんだってね」

バファリンをのんでいらっしゃる方は納豆を食べても大丈夫です
納豆を食べてはいけないお薬で、バファリンと同じような作用
のものに『ワーファリン』というお薬があります
ワーファリンは血液を固まらせる作用のあるビタミンKを抑えること
で血液の流れを良くしますので、ビタミンKを沢山含む食品の
納豆やクロレラ、青汁、などを摂取すると作用が弱まってしまいます

バファリンは同じ名前の痛み止めが市販でありますが、成分が違い、
処方箋で出るものは、アスピリンという100年も前に発見された鎮痛剤で
大戦時、負傷兵にアスピリンを投与すると、痛みは治まるものの
出血が長引いたことから、かさぶたを出来にくくする作用、つまり血液を
固まりにくくする作用もあることが発見されました

その患者様のお友達はきっと『ワーファリン』をのんでいらして
『血液を固まりにくくする』という作用と『・・ファリン』という
言葉の響きが似ていることから、同じお薬だと勘違いされ
何も知らないお友達に知らせてあげなくちゃという使命感から
うちの患者様にそのようにおっしゃられたものと思われます

こういった類のことは他にも枚挙にいとまが無いくらいあります
「劇薬は赤いシートに入ってるんだってね」とか
「これは強い胃薬だから二ヶ月しかのんじゃいけないんだってね」とか
「筋肉痛おこすのはコレステロールのお薬のせいなんだってね」とか

それらはまるで薬局にまつわる『都市伝説』のようです
『薬局都市伝説』は、善良な人々の善意により広められ
部分的には正しかったりするので、いかにも信憑性があるかのように思え
迷える子羊のような患者様方の心を蝕んで行き、必要も無いのに
大好きな納豆を食べずに我慢なさっている方が出てくるのです

私共の仕事は、ビタミン剤を劇薬と思って恐る恐るのんでおられる
患者様に「劇薬の棚は確かに赤く印しますが、このお薬が赤いシートに
入っているのはただ単に光に弱いからなんですよ」と説明したり
胃酸を抑えるお薬のおかげでずいぶん楽になったけど、あと2週間しか
のめないと悲しんでおられる患者様に「胃酸がこみ上げてきて胸焼けがする
タイプの方ならばこのお薬ずっと出してもらえますよ」と安心させたり
ゴルフのやりすぎで筋肉痛になってるのに、コレステロールの薬のせいだと
思いこんでいらっしゃる患者様にシップを張るよう勧めたり、すること

そうです、私達薬剤師は『薬局都市伝説バスターズ』だったのです
もしも、怪しいなと思うような薬にまつわる噂を耳にされたら
是非 『薬局都市伝説バスターズ』 にご相談下さい

本来の実力の血圧

「血圧の薬ってのみ始めると一生のまなくちゃいけないの?」
というふうに思い込んでいらっしゃる方も意外に多いものです。

血圧が高いのも生活習慣病の一種ですので、生活習慣の改善
塩分を減らしたり、運動したり、腹八分目にして体重落としたり
などの努力をすることによって血圧が下がってくれば
お薬をのまなくて済むようになる方もいらっしゃいます

「血圧は下がってきてるんだよ。でも、病院で測ると高いんだ。
今日も180/95だったけど、俺の実力はもっと低いんだよ」
という場合は『白衣高血圧』と言いまして、医師の白衣姿を見ると
(何か後ろめたいことでもあるのか?)動揺して血圧が上がる現象です
逆に『仮面高血圧』と言いまして、医師に遭うとホッとするのか
病院での血圧は正常でむしろ自宅で測ると高血圧になっている場合も
あると言われています

前回述べた脳や心臓の病気と血圧の関係は、自宅にいる時の血圧の方が
関連性が強いと言われますので『俺の実力はもっと低い』事を証明
する為にも是非家庭血圧を測定することをお勧めします
ネットで買えば5000円程度で血圧計が買えますし
少し高くなりますが、当薬局にてもご購入頂けます

血圧は上腕式=二の腕ではかるタイプのものにして下さい
その方が心臓に近いということもありますが、血圧の世界的標準が
上腕で測った数値で決められていますので、手首や指で測った血圧が
低くても、上腕で測ったものでなければ駄目なのです
因みに血圧測定は1905年にロシアのコロトコフという人が考えた方法が
100年もたった今でも標準とされています。すごいですね。

一日一回測るのであれば、朝血圧の薬をのむ前がいいと思います
この時間の血圧をトラフ値といいまして、薬の作用が一番切れる時間帯の血圧が
低ければ、薬が一日効いているということの確認にもなります

測った血圧は手帳などに記入して、次回受診するときに医師に提示しましょう
これでついに『俺の実力はもっと低い』事が証明される瞬間がやってきました
良かったですね! 当薬局にて血圧手帳を無料で配布させて頂いておりますので
必要な方はお声を掛けてください

血圧の薬をやめていいかどうかは医師の指示に従って下さい
もしかしたら薬のせいで下がっているだけという場合もございます
そういう場合は薬をやめて一週間程度するとまた上がってくるそうです

私の叔父は「通りの向こうから綺麗な人が歩いてくるだけで血圧が上がる」と
言っていました。これは『美人高血圧』とでも名づけたらいいのでしょうか?
私もハンサムな医師や男性看護師さんのせいで『本来の実力以下の高血圧』
と思われてしまっては大変なので、時々家庭血圧を測ることにしています

血圧の薬をのみ続ける意義

「血圧の薬ってのまなくちゃいけないのかなぁ?
友人は血圧高いと頭痛や肩こりがするって言うんだけど
俺はどこも痛くも痒くもないんだけどなぁ」
と聞かれる患者様があります

一つ目の水道管はいつも適度な水圧で水が流れている
二つ目は時々高い水圧になるがたいていは適度な水圧である
三つ目はいつも高い水圧で水が流れる状態が何年も続いている

三つ目の水道管は亀裂が入ったり、破裂したりしそうで恐いですね
水道管は破裂しても新しいものと取替えれば済みますが
もしこれが人間の血管だったら?

『高血圧治療ガイドライン』によると「血圧水準の低下とともに
脳卒中罹患率・死亡率の低下が見られる。心疾患に関しても同様である。」
とあり、血圧の薬をのんでいた人は、脳卒中や心筋梗塞になりにくく
なったとしても命を取り留めやすいということなのです

「おばあちゃんは脳卒中で50代で亡くなったんだ」とおっしゃる方も
ありますが、おばあちゃんの時代には残念ながら血圧の薬がありませんでした
初めて血圧の薬が出てきたのは大体1950年頃で、初期のものは
とても副作用が強く、血圧を下げないと命にかかわるような重症高血圧
の人にしか投与されませんでした

1960年頃から安全な利尿降圧薬が出てきて、それとともに
血圧のお薬をのんだ人とのまなかった人を統計的にくらべる
大規模な調査が行われ、高血圧治療した方が、
脳卒中や心臓病になる確率が、格段に下がることが分かってきました
つまり、血圧の薬が出来たのも、血圧を下げた方がいいと分かったのも
ほんのこの半世紀の間に起きてきたことなのです

「人生50年」といわれた時代から現在の長寿大国日本になれたのも
高血圧を治療するようになったことが大きいと言われます
勿論、戦争の無い平和な時代が続いたことや、感染症に良く効く
抗生物質が使われだしたこともありますが

実際に、以前は脳卒中起したことのある人は一目見れば分かりましたが、
現在では、ご自分から「私3年前に卒中で倒れたの」などと
言って頂かない限り、分かりにくくなってきています
それだけ血圧治療の重要性が浸透して、脳卒中起しても軽く済む人が
増えているということなのでしょうね

血圧が高かったらきちんと治療して、おばあちゃんの出来なかったこと
孫の結婚式に出たり、ひ孫の顔を見たり、元気な足で金婚式の旅行に行ったり
を是非して下さい! 今はそれが出来る時代です。
プロフィール

フロル

Author:フロル
調剤薬局で働く
薬剤師です

興味のあることは
(昔)パッチワーク
   お菓子作り
   ベランダ・ガーデニング
(現在)糖尿病
    手料理
    パン屋さん

 2014年~ 多肉植物
 在宅を細々始めました

自分の勉強の為にブログを書いています

カテゴリ
エコライフ

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